幻想的な空気を纏った物語には、
古今東西老若男女問わず引きつける魔力がある。
ファンタジーという分野の物語が世代を超えて世界中に支持されるのは、
その魔力とも言える魅力があるからだ。
神話や伝承に端を発する想像の世界。
トールキンの指輪物語、エンデのはてしない物語、ローリングのハリーポッターなどなど。
それらは僕達読み手を異次元の空間に連れて行く。
そして、その不思議の世界で魅了してくれる。
また、現実の世界に起こりうる驚きの事実や、
謎を解き明かす頭脳明晰な主人公の物語にも、
人を魅了してやまない力がある。
僕らは自分の理解を超えた世界観が好きだ。
文学の世界でミステリーが地位を確立したのも、
その影響だと言える。
人知を越えたその発想に僕らは吸い込まれ、
驚くべき結論に心踊る。
さらに、もう一つ。
想像と現実の狭間で繰り広げられる物語には、
評価も判断も越えた、簡単には言い表せない不思議な魔法で人を引きつける力がある。
それはマジックリアリズムと言われる表現方法。
遠い昔の話ではなく、見たこともない世界の果ての話でもなく、
ごく身近な世界で、人知れず起こりうる事件や奇跡は、
読み手を幻想と現実にある狭間の、不思議な世界へと呼び込む。
日本を代表するSF作家の筒井康隆や、
沖縄を舞台として現実と伝承を融合させた物語を描く池上永一も、
このマジックリアリズムに影響された作品を多く発表している。
そして僕は一冊の、幻想と現象の伝承に触れることとなった。
桜庭一樹 ーーー赤朽葉家の伝説ーーー
戦後間もなくの山陰のとある村。
サンカと呼ばれる山の民に生まれた一人の娘がいた。
その娘は村の民に育てられ、村一番の富豪の家に嫁ぐことになる。
物語は彼女から孫娘までの女三代の系譜を辿る。
この伝説の語り部は現代を生きる孫娘、瞳子。
サンカに生を受けて千里眼という特殊能力を持った祖母の万葉。
男勝りの気性で戦後の好景気や競争の激しい時代を生き抜いた母親の毛鞠。
バブル後の低迷期に育った孫娘、瞳子。
物語は、戦後日本の歴史とともに瞳子が祖母と母の伝説を、叙事的に語る。
第一部の万葉の物語、第二部の毛鞠の物語では、
そう遠くない身近な歴史と、非日常的な伝説が巧く融合し、
回顧録のような淡々とした語り口調ながら読み手を物語に引き込む。
読み進むうちに、僕らは現実か幻想かわからないその世界観に、
すっかりはまり込んでいく。
感情的な表現は一切見られないにもかかわらず、
物語の世界に引き込む作者の筆力は、
目を見張るものがある。
辺境の地を表現する文章も、色鮮やかで素晴らしい。
山や谷、海辺の街やお屋敷の中を表す一言一句が、
まるで映像を見ているかのように生き生きしている。
きっとこの桜庭一樹という作家は、
勢いに任せることなく、ひとつひとつの言葉を大切にしているからこそ、
クオリティの高い作品を生み出すことができるのだろう。
第三部の瞳子の物語ではその表現が一変し、叙情的な文章となる。
伝承ではなく現在の自分について綴られる物語には、
初めて生々しい感情が折り込まれる。
そでまでの淡々としながらも驚きの連続だった物語から、
一気にリアルな感情の物語への切り替えで、
読み手は戸惑いと物足りなさを感じ、不安になる。
しかし、その第三部にこそ、作家桜庭一樹が伝えたかったことがあるように思えてならない。
この作品が三代の女性、とりわけ祖母の万葉にまつわる物語を淡々と叙事的に綴ったのは、
作者の目的が「女三代の伝記」ではなく、孫娘が自家に伝わる系譜と伝承をふまえて、
自分のあり方や生き方の自問自答する姿を描きたかったからなのではなかろうか?
千里眼という特殊な能力で数奇な運命を辿った万葉や、
その際立った存在感が周囲の人を圧倒する毛鞠に比べ、
ありふれた日常のなかで物足りなさや生き甲斐を見つけられない瞳子。
その心の動きが、彼女「瞳子」を通して読み手の僕らに今を生きることの意味を
投げかけているような気がする。
叙事から叙情への表現の変化はその設定と作者の意図がもたらした、
必然であったのだ。
万葉の伝説の面白さのみに心惹かれる読者も多く、
「中だるみしている」とか「最後は物足りない」とか、
いまいち否定的な声もちらほら聞かれる作品ではあるが、
本当はこの作品の第三部にこそ作家の求めた意味があったのだと、
そんなふうに感じている。
とはいえ、深く考え込まなくても気軽に読んでその作品の世界で充分楽しめる。
ただただ桜庭一樹が描く幻想と現象の世界に、僕らはひたすら酔えばいいのだ。
この記事へのコメント一覧
確かに、収入が激減して、どうやって生活費を得ようかと考えてばっかりじゃったし、そんな状況でも、持ち前の妄想は膨らましちょったし、よー当たっちょたですいね。 [削除]
妄想同盟でも組みましょうか。
ちなみに脳内メーカー。
僕の場合は同僚の女の子が勝手にやってくれたんですけど、
「悪」「秘」「愛」「嘘」「友」で構成されていました。
その女の子の冷たい視線に心が折れそうでしたが、
今では「なるほど」と思っています。
よ〜当たっちょったですいね(苦笑) [削除]
でも次から次へと顔を出す非日常というか妄想というかこの話の雰囲気はとっても好きでした。
京都、行ったことないですが
ちょっと妄想旅行するにはぴったりの本ですよね。
かなりの非日常妄想っぽいですが(苦笑) [削除]
不思議な雰囲気の話でしたね。
「おともだちパンチ」やら「ナカメ作戦」やら・・・
古本市とかも魅力的で、僕は物語の世界にとっぷり浸ってました。 [削除]