「読む」のち「飲む」ときどき「遊ぶ」

妄想が生む日常と非日常の境界   夜は短し歩けよ乙女

(2009/07/01 Wed)
男なら、子供から大人まで年齢関係なく妄想癖のある人が多い。
ましてや読書が好きなどという人ならなおのこと。
想像の世界で妄想を膨らましつつ、物語を楽しむ。

本好きの僕は、その例に違わぬ妄想家である。

そしてそれは読書に限った妄想ではない。
日常生活のなかでも、ふいに、たびたび・・・
といっても、別にロマンチックな空想ばかりしているわけではない。
ただ、家族との日常生活の中、会社の行き帰り、同僚と飲んだ帰り道。
目の前の現象や直前の会話からインスパイアされた僕の思惑は、
現実の世界から一気に飛び立ち、楽しく苦しく淡い不思議の世界に入り込む。

テレビで旅番組を見ては行ったこともない札幌や小樽の街を自由に闊歩し、
産婦人科医院のウェブサイトを作っては自分の子供が誕生した日にタイムスリップし、
同僚とおいしいお酒を飲んだ後は見たこともない造り酒屋の杜氏に思いを馳せる。

でも・・・
それでもなにより本を読んでは、
自分の学生時代やまだ若く自由であった独身の頃に戻ってしまう。

寝ていたわけではないのに、いつの間にか時間が過ぎていることは日常茶飯事。
「ねぇ聞いてる?」という妻の声も、
もう10年以上経った今では「またどこか(心が)行ってた?」という言葉に変わった。

しかしそれは僕だけだろうか?

いやいや野比のび太も関根勤もノンスタイル石田もチュートリアル徳井も、みんな妄想家だ。
ましてや小説家など、想像と妄想から独自の世界を生み出し、それを表現している。

であれば、小説とは想像と妄想の賜物に他ならない。
そしてそれを実感する物語を見つけた。

森見登美彦 ーーー夜は短し歩けよ乙女ーーー



舞台は京都。
黒髪の乙女と妄想癖のある男が繰り広げる不思議な不思議な青春ファンタジー。

そもそも京都と言う舞台が、
僕らのように京都に住んでいない者にとっては不思議で興味深い土地柄。
さらに夢かうつつかわからない幻想的な「夜」と「お酒」の力を借りて、
この物語は日常と非日常の境界を彷徨い歩く。

文体はとても個性的で、
古くさい言い回しや、いちいち細かいところに拘った小物の表現が、
京都という独特の土地柄にマッチしている。

うだつの上がらない妄想癖の男の言動に、
読み手はある種の共感と笑いを覚え、
なんともかわいらしい黒髪の乙女の天然ぶりに、
憧れと恋心を抱く。

すれ違いながらも少しずつ近づいていくこの主人公の男女には、
日常では味わえない不思議な魅力を感じて応援したくなる。

それを嫌味なく読ませるのは、作家森見登美彦の「巧さ」なのだろう。
衒学的、なおかつ文語調な文体は、
まさに超絶な完成度。

講談師のような語り口調で始まる文章にどうしても馴染めない人には、
さいごまで苦痛を感じさせるかもしれないが、
日常を離れて幻想の世界に浸りたい人には、うってつけの作品だろう。

千年の都として京都が育んできた歴史は、
なにも寺社仏閣など目に見えるものばかりではない。
このような幻想の世界がピタリとハマる、
日常と非日常の両立する「雰囲気」こそが、
僕のような余所者にとっての京都の魅力。

この作品を読んで京都へ行きたくなった。
もちろん、すでに僕の妄想は京都を舞台に駆け巡っている。



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茶菓子 ◆ chagashi at 2009/07/01 21:52
去年頃、ネットで「脳内メーカー」とか言うのが流行って、僕の脳みその成分は、ほとんどが「金」で脳の中心部だけ「妄想」って出ましたいね。
確かに、収入が激減して、どうやって生活費を得ようかと考えてばっかりじゃったし、そんな状況でも、持ち前の妄想は膨らましちょったし、よー当たっちょたですいね。 [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/07/02 20:54
茶菓子さま。
妄想同盟でも組みましょうか。
ちなみに脳内メーカー。
僕の場合は同僚の女の子が勝手にやってくれたんですけど、
「悪」「秘」「愛」「嘘」「友」で構成されていました。
その女の子の冷たい視線に心が折れそうでしたが、
今では「なるほど」と思っています。
よ〜当たっちょったですいね(苦笑) [削除]
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2HAKO at 2009/07/02 23:18
私はこの話は先輩と黒髪の乙女がかわいいなぁとか思いながら読んでました。
でも次から次へと顔を出す非日常というか妄想というかこの話の雰囲気はとっても好きでした。

京都、行ったことないですが
ちょっと妄想旅行するにはぴったりの本ですよね。
かなりの非日常妄想っぽいですが(苦笑) [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/07/03 19:57
2HAKOさま。
不思議な雰囲気の話でしたね。
「おともだちパンチ」やら「ナカメ作戦」やら・・・
古本市とかも魅力的で、僕は物語の世界にとっぷり浸ってました。 [削除]
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幻想と現象の伝承  赤朽葉家の伝説

(2009/06/27 Sat)
幻想的な空気を纏った物語には、
古今東西老若男女問わず引きつける魔力がある。
ファンタジーという分野の物語が世代を超えて世界中に支持されるのは、
その魔力とも言える魅力があるからだ。
神話や伝承に端を発する想像の世界。
トールキンの指輪物語、エンデのはてしない物語、ローリングのハリーポッターなどなど。
それらは僕達読み手を異次元の空間に連れて行く。
そして、その不思議の世界で魅了してくれる。

また、現実の世界に起こりうる驚きの事実や、
謎を解き明かす頭脳明晰な主人公の物語にも、
人を魅了してやまない力がある。
僕らは自分の理解を超えた世界観が好きだ。
文学の世界でミステリーが地位を確立したのも、
その影響だと言える。
人知を越えたその発想に僕らは吸い込まれ、
驚くべき結論に心踊る。

さらに、もう一つ。
想像と現実の狭間で繰り広げられる物語には、
評価も判断も越えた、簡単には言い表せない不思議な魔法で人を引きつける力がある。
それはマジックリアリズムと言われる表現方法。
遠い昔の話ではなく、見たこともない世界の果ての話でもなく、
ごく身近な世界で、人知れず起こりうる事件や奇跡は、
読み手を幻想と現実にある狭間の、不思議な世界へと呼び込む。
日本を代表するSF作家の筒井康隆や、
沖縄を舞台として現実と伝承を融合させた物語を描く池上永一も、
このマジックリアリズムに影響された作品を多く発表している。

そして僕は一冊の、幻想と現象の伝承に触れることとなった。
桜庭一樹 ーーー赤朽葉家の伝説ーーー


戦後間もなくの山陰のとある村。
サンカと呼ばれる山の民に生まれた一人の娘がいた。
その娘は村の民に育てられ、村一番の富豪の家に嫁ぐことになる。
物語は彼女から孫娘までの女三代の系譜を辿る。

この伝説の語り部は現代を生きる孫娘、瞳子。

サンカに生を受けて千里眼という特殊能力を持った祖母の万葉。
男勝りの気性で戦後の好景気や競争の激しい時代を生き抜いた母親の毛鞠。
バブル後の低迷期に育った孫娘、瞳子。
物語は、戦後日本の歴史とともに瞳子が祖母と母の伝説を、叙事的に語る。

第一部の万葉の物語、第二部の毛鞠の物語では、
そう遠くない身近な歴史と、非日常的な伝説が巧く融合し、
回顧録のような淡々とした語り口調ながら読み手を物語に引き込む。
読み進むうちに、僕らは現実か幻想かわからないその世界観に、
すっかりはまり込んでいく。
感情的な表現は一切見られないにもかかわらず、
物語の世界に引き込む作者の筆力は、
目を見張るものがある。

辺境の地を表現する文章も、色鮮やかで素晴らしい。
山や谷、海辺の街やお屋敷の中を表す一言一句が、
まるで映像を見ているかのように生き生きしている。

きっとこの桜庭一樹という作家は、
勢いに任せることなく、ひとつひとつの言葉を大切にしているからこそ、
クオリティの高い作品を生み出すことができるのだろう。

第三部の瞳子の物語ではその表現が一変し、叙情的な文章となる。
伝承ではなく現在の自分について綴られる物語には、
初めて生々しい感情が折り込まれる。

そでまでの淡々としながらも驚きの連続だった物語から、
一気にリアルな感情の物語への切り替えで、
読み手は戸惑いと物足りなさを感じ、不安になる。

しかし、その第三部にこそ、作家桜庭一樹が伝えたかったことがあるように思えてならない。

この作品が三代の女性、とりわけ祖母の万葉にまつわる物語を淡々と叙事的に綴ったのは、
作者の目的が「女三代の伝記」ではなく、孫娘が自家に伝わる系譜と伝承をふまえて、
自分のあり方や生き方の自問自答する姿を描きたかったからなのではなかろうか?

千里眼という特殊な能力で数奇な運命を辿った万葉や、
その際立った存在感が周囲の人を圧倒する毛鞠に比べ、
ありふれた日常のなかで物足りなさや生き甲斐を見つけられない瞳子。
その心の動きが、彼女「瞳子」を通して読み手の僕らに今を生きることの意味を
投げかけているような気がする。

叙事から叙情への表現の変化はその設定と作者の意図がもたらした、
必然であったのだ。

万葉の伝説の面白さのみに心惹かれる読者も多く、
「中だるみしている」とか「最後は物足りない」とか、
いまいち否定的な声もちらほら聞かれる作品ではあるが、
本当はこの作品の第三部にこそ作家の求めた意味があったのだと、
そんなふうに感じている。

とはいえ、深く考え込まなくても気軽に読んでその作品の世界で充分楽しめる。
ただただ桜庭一樹が描く幻想と現象の世界に、僕らはひたすら酔えばいいのだ。



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茶菓子 ◆ chagashi at 2009/06/27 21:48
お〜・・・

そのうち小説書いてもらえんですかね。 [削除]
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2HAKO ◆ yomlog at 2009/06/27 23:13
こんにちは。コメントありがとうございました。

桜庭一樹は小説からライトノベルまで大活躍ですね。
正直私はライトノベルのGOSICKしか読んだことはないのですが…
そのうちこの本とか、少女七竈と〜に挑戦してみたいです。

こちらからもリンクを張らせていただきます。 [削除]
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superfly at 2009/06/30 17:37
酒を片手に推敲を重ねるストイックな姿。と、書くと、
「違う違う」と言われそうだが、

酒を片手に、思い出し笑いをかみしめつつ、
ほのぼとした筆致で日々を描く記事も私は大好きです。

あまりスタイルに固執することなく、
気ままに、気楽に、頻繁にアップしてください(笑) [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/07/01 20:18
茶菓子さま。
僕は「すでにあるもの」に対してあ〜だこ〜だ回りくどく適当なことを言うことはできるのですが、なにかを「新しく生み出す」発想が全くないのです。
ですので残念ですが小説を書いたりすることは、絶対に出来そうにないです・・・
でも茶菓子さんのコメントがいつも嬉しかったりします。 [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/07/01 20:33
2HAKOさま。
こちらこそ早速コメントいただきありがとうございます。
僕にとってこの小説は「私の男」に次ぐ桜庭作品2作目でした。
この作家、感性が若いのか面白い雰囲気持ってますね。
恩田陸や森絵都とはひと味違う、少しクセのある魅力です。
いろいろと手を出したくなる作家でした。  [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/07/01 20:35
superflyさま。
おぉっと的確なご指摘ありがとうございます。
なんかね「せっかく書くなら褒めてやろう」とか思ってると、
ついついこんな書き方になってしまうのです。
自分でも回りくどいな〜って思います。
また、もうひとつ。
ほのぼのとした日常を書けるほど、
ほのぼのとした日常を最近過ごしてないのです。
なので頻繁にアップする事柄がないのです(涙)
だから本の世界に逃げてるのかなぁ・・・
お酒、飲みたいですねぇ。 [削除]
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心を和ます世界観   つむじ風食堂の夜

(2009/06/12 Fri)
職場や自宅以外で頻繁に顔を出す場所なら、
気負わずはしゃがず、たわいのない会話と遠慮しなくていい空間がいい。

取り立てて用意されたシチュエーションは要らない。
高級な食器も家具も、演出も要らない。

ありふれた環境と、ありふれた会話が嬉しい。
贅沢だが、開放的過ぎず、でも閉鎖的過ぎない場所がいい。
そしてどことなく懐かしく、やさしい雑音があれば、
張りつめた気持ちも、研ぎすまされた感覚も、
ゆっくりと解けるように休めることができる。

疲れた時に旅に出たくなる気持ちが起きても、
現実はそれを許さない。
であれば日常で、身近な環境で、
僕らは心を和ます空間を求める。

それはお気に入りの書店であったり、
緑のきれいな公園であったり、
夕日を望む河原であったり、
気のおけない仲間がいるBarだったり、
昔から通っている食堂であったり。

大人になってより強く感じるようになった。
人それぞれ求める空間は違っても、
心を和ます場所が欲しい。

先日、僕はある作品にその世界を観た。

吉田篤弘ーーーつむじ風食堂の夜ーーー


ありふれた田舎町の風景のはずが、
帽子屋にも、果物屋にも、古道具屋にも、
その街の佇まいに、住人の会話全てにセンスを感じる。
登場人物は雨降りにこだわる先生や洋食に拘る料理人、
インチキじみた発明家や、一癖ある舞台女優など、
どことなく個性的な住人。

ある人は朴訥で、ある人はいい加減。
ある人はヒステリックで、またある人はちょっと大げさ。
でもみんなちょっとずつ寂しさと優しさを持って寄り添い、接している。

特別なことは何も無い筈のこの街が持っている空気は、
僕らが心の奥に持っている郷愁感を刺激する。

柔らかな文体とセンスのいい会話。
描き出される世界は、まるでおとぎ話の世界。

作者の手でさり気なく飾られていく古びたこの街が醸し出すのは、
ノスタルジックで心温まる風景。
嫌味なく表現されるシーンがそれぞれシャレていて、
派手さもスピード感もないのに、見事に引き込まれてゆく。

この作品の淡く優しい世界観が、
読み進めるにつれ、心に沁みてくる。
それはとても上質な小説の証。

現実の世界に理想の空間はなかなか見つけられないけれど、
僕は本を読むことでそれに触れることができる。

この作品のおかげで、ますます読書が好きになった。
僕のとっておきの一冊。



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茶菓子 ◆ chagashi at 2009/06/12 23:55
「とっておきの一冊」・・・いい言葉ですねー。
今「暁の密使」を図書館で借りて読んでますが、この本も興味をそそります。でも、人のとっておきの一冊を読むのはなんかその人の庭を踏み荒らすような気もして躊躇します。
僕は物を持たない主義で、ほとんどの本を古本屋に売りましたが、どうしても手放せない本が数冊あって、何度も読み返しています。こんなダメ人間でも、その本のおかげでなんとか社会で生きていける元となった本です。
その中の一冊に、日露戦争に従軍したアメリカ人記者が書いた、乃木大将の本があります。 [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/06/13 00:05
茶菓子さま。
>人のとっておきの一冊を読むのはなんかその人の庭を踏み荒らすような気もして躊躇します。
この気持ちよくわかります。でも、紹介している本人は「薦めたい」とはいかないまでも、読んでもらって嫌な気はまったくしないもんじゃないかと思います。
そもそもコメント貰ってる時点でそうとう嬉しかったりするので・・・
そこから先、共感してもらえるかどうかは、個人の趣味によるところもありますしね。
そんな僕も以前茶菓子さんのブログで紹介された「火天の城」と「利休にたずねよ」を、こっそり図書館に予約中だったりしてます。 [削除]
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信を求める者とそれを利用する者 暁の密使

(2009/06/04 Thu)
信じる者は救われる。
とは限らないのが人の世の常。

学校でもそうだし、社会に出ても、もちろん家庭でも。
自分の行動や信じた道とは全く別の次元で、
驚くような裏切りにあったりする。

純粋に信じて一途に取組む人がいる。
誘惑や猜疑心に負けず、脇目も振らずに真摯に取組む人がいる。
仕事や学問はもちろん、宗教であればなおさらの事。
信じる道は信じてこそ、光り輝くのだから。

しかし、世の中にはそういった人を「利用しよう」と企む組織や人がいる。
世の中の情勢が不安定になればなるほど、
得体の知れぬ悪意を振りかざし、真っすぐな人を翻弄する輩が出てくるものだ。

今世界は不況の真っただ中にある。
経済も政局も、どこかの国の誰かが振りかざした悪意で翻弄される。

僕らはその悪意をかわすことはできるのだろうか?
今、すでに見知らぬうちに悪意に飲み込まれてはいないのだろうか?


今から100年ほど昔。
まだ開国したばかりの日本を飲み込む動乱があった。
欧米列強の帝国主義時代。
日本も右へならえでその真っただ中に突っ込み始めた。
そんな激動の時代のひとりの男を描いた作品がある。

北森鴻ーーー暁の密使ーーー



明治時代。
開国後の日本は欧米列強の文化や思想の流入により激動の時代に入った。
今まで触れた事の無い欧米の異文化は、
人々の暮らしに便利さをもたらしただけでなく、
これまでの常識を180度変えてしまうほどの異質の思想をもたらした。
そしてその異文化は、決して敵う事の無い国力の違いを見せつけた。

そこで日本が採った方策は、思想の統制。
「神の国日本」という思想のもと、
異質な文化に蹂躙され無いよう狂気の思想言論の統制を敷き、
自国の文化を守ろうとした。
武力による制圧よりも、伝統と文化を失うことに恐れを抱いたのだ。

しかしその統制の影で、日本に長く根付いた思想が失われようとしていた。

廃仏毀釈。
仏を捨て、神道を国家の神髄としたため、
仏教は壊滅的な打撃を受ける。

そんな中、一人の男が仏教界の運命を背負って、
最高の教典を求め聖地チベットへ向かう。

この物語はミステリ作家の北森鴻が書く「冒険小説」。
また実在の人物を登場さることで、歴史小説としても完成度をぐっと上げている。

清朝末期の中国を舞台にチベットを目指す行程の描き方は、
とてもドラマチックでダイナミックだ。
歴史書が語らない隠れたドラマが、激動の時代を生きる人々をうまく浮かび上がらせる。

今の時代からは想像もできないくらい過酷で困難を極める男の旅を、
その真摯な生き様に惹かれた周囲の人々が助けて背中を押す。

しかし、そこは列強の思惑に翻弄された清朝末期の中国が舞台。
主人公の思惑とは全く別の次元で世界中が自国の利益を求め、
男の真理を、本来ならば穢されてはならない宗教の教義を、
都合のいいように利用し始める。

あまり想像したくない残酷な歴史の中で、
もがきながら自分の道を進んだ主人公に、
救いはあったのだろうか?

物語はその部分を明記しない。
だからこそ、読者は余計に深く考えさせられる。

主人公がもしもチベットでその教義に触れたならば、
僕が先日博物館で見た仏像や仏画、教典を目にしたのならば、
宗教家としての思いを遂げることができたのかもしれない。

本書がそれを語らない限り想像する事しかできないが、
できれば主人公はその本懐を遂げたはずだと、
僕は心から願う。



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茶菓子 ◆ chagashi at 2009/06/05 21:10
なしてこねーな文章が書けるんですかいのー?
次に何を読もうかと迷いよったんで、読んでみましょういね。
ところで、思想の国家統制ちゃー何なんですかいねー。
うちの親は、尊皇攘夷の長州藩の人間なのに、天皇を崇拝してなかったですいね。
今日ラジオで、中国の若者が、日本の現代文化にすごい詳しいのに、「共産主義」と言う言葉を知らないちゅー話をしてました。
あっ!またねんごを言うてしもーた・・・ [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/06/07 23:03
茶菓子さま。
2年から3年への進級すら危うかったくらい阿呆な文学部卒の僕には上手い答えが見つかりませんが・・・
思想とは教育なのではないでしょうか?
古代から中世にかけては寺社等の宗教機関が、近世には藩校や私塾が、それぞれの宗教や主義の元、教育を施しそれが思想になったのだと思います。禅宗の寺院では禅の教義を、儒学を元にした私塾では儒教の教えをベースにして。長州では吉田松陰が松下村塾を開き、世の中を動かす人物達を育てました。
しかし、近代以降は政府が義務教育の教育機関を管理して「教育勅語」を元に、統一した教育を始めます。
教育で得るものは、国語算数理科社会の知識だけではありません。教育者やそれらを管理する側の大人の思想が、くり返し刷り込まれる事だと思います。
戦前、日本が帝国主義に走ったのも、中国の若者が自国の主義を理解していないのも、自国に都合のいい教育の統制=思想の統制が行われたからだと、僕は思います。
え〜今回も取り留めのない事を書いてしまいましたが、あくまで僕の超個人的解釈です。教育に携わっている方や、宗教を深く信仰されている方に対して意見しているわけではありません。  [削除]
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superfly at 2009/06/08 16:25
いいペースで更新されており、楽しく拝見させてもらっています。
さて、この流れでブッダとイエスが共存共生する世界を描いた
「聖☆おにいさん」を紹介するのは、、、空気が読めてない?
では、また。 [削除]
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tom23 ◆ tom23fuk at 2009/06/09 15:44
superflyさま。
去年から話題沸騰の「聖☆おにいさん」ですね。
手に入れようとたまに古本屋を覗くのですが、なかなか置いてないです。 [削除]
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